初めて部下を持ったのは28歳のとき。
以来15年、常に複数人の編集者を抱える編集長として仕事をしてきました。
世間の平均と比べ、管理職になったのは早い方かもしれません。
部下を持つことで、自分ひとりでは経験できない量の仕事をさせてもらったと思います。指導する中で、自分の編集スキルも磨かれました。
責任を持たせてもらい、信頼してもらったのは会社に感謝しているし、鍛えられたなあと思いますが…
…15年やって、もういいかな。疲れたな…というのが正直なところ。
私の管理職時代は、ちょうど30代の子育て期と重なります。
編集長としてチームをみるということで、自分の発刊点数はセーブしてもらっていましたが、部下の誰かしらの締切が常にある状態。
時短勤務の中、時間を捻出するのは大変でした。
子供を公園で遊ばせながら、自分はベンチでゲラを読む、といったこともよくやった^^;
まだ若かったから、できたということもあるでしょう。
会社のために、という忠誠心もあった。
実力を認められて、将来的には部長や役員に…という色気もどこかにあった、たしかに。
それがいろいろあって、頑張りの糸がぷつりと切れ、夢から醒めてしまった。
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自分で言うとすごく嘘くさいのですが、私さえやりたいと言い出せば、いつでも編集部長になれる立場にいた(実際に社長にそう言われていたので)。
当時、部長だった人が病気で退職し、部長職は空席。私は編集部次長という役職で、実質編集部のトップだった。
小さい会社なので、部長となれば役員への道はすぐそこ。そのコースへの王手がかかってみて…
自分は本当は、全然それが欲しくなかったことに気づいた^^;
夢から醒めてみると、会社組織それ自体が幻想なんだと気づく。
その幻想のために、自分は一生懸命、保育園に子供を預けて仕事してきたのか…。いったい何だったのだろう。
そう気づいてから、一連の一人働き方改革が始まりました。
在宅勤務、裁量労働制…。
さらには、編集長の立場から降りること。それを会社にも要求しました。
これから子供たちがどんどん難しくなる時期。今まで以上に早く帰り、一緒にいる時間を増やしたい。
(学童に寄らず早く帰り、ベランダで縄跳びをする娘を見られるありがたさ)
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それに、15年やってみて、自分はつくづく管理職に向いていないと思ったこともあります。
キャパシティが狭く、常に自分のことで精一杯な自分。部下の人たちとなかなかおおらかに向き合うことができませんでした。
見る人から見れば「パワハラ上司」だったかな…。もともと「こわい」と言われがちな性格だし^^;
私も部下の面倒をみるのがしんどいし、私の部下になる人もきっとしんどい。
自分が管理職であることで、誰もハッピーにならないなと…
最終的に、先日完全に部下がいなくなりました。
異動だったり、偶発的な退職だったりで少しずつ人員が減っていたのですが、最後の部下だった人は、栄転と言える転職だったので、良い形で店仕舞いできたのは感謝。
それがわかった今年の4月時点で、次長の肩書も返納(?)していました。
次長らしきことも全然していないし、そもそも部下もいなくなるし。
もっとふさわしい人に次長をやってもらったらいい。他課の編集長が新たに次長となりました。
自ら望んで降格してもらったわけだけど、こんな人なかなかいないかな^^;
でも、同じようなワーママがキャリアダウンした話が心に残っていたので。
そういう選択肢は全然ありじゃないかと思っています。
どれだけこれまで築いてきたものを捨てられるか…。キャリアを積んだ40代だからこそ、試されるのではないかと考えていて。
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さて、実に15年ぶりに一人所帯となりました。
他課の後輩とゆるく一緒に仕事していることもあり、編集長の肩書は付いたままですが。実質、いちプレイヤーに戻りました。
…これが、とても清々しいのです。
そう、自分の求めていたことはこれだったのだと。
いちまつの寂しさはもちろんあるけれど、自分の仕事だけに集中できる愉悦。
子供が巣立ったあとの老後生活も、こんな感じなのでしょうか。
やっぱり、人の上に立つ器じゃないんだよなあ。つくづく。
私は犬タイプか猫タイプかと言ったら、猫タイプなのです。組織とか本当に苦手。
私の父がまさしくそういう人で、上司と喧嘩して職場をやめ、仕事を転々としたくち^^;完全一人仕事の個人タクシーは、父にとって天職のようです。
そんな父に育てられ、「おまえにサラリーマンはできない」と呪いをかけられていた。それをはねのけるため、またサラリーマンへの痛烈な憧れから会社勤めをして、「私にもできるじゃん」と思っていたが…
年をとるほど、地金が隠せなくなる^^;
こんな協調性のない人間、組織には向かないわあ。
…まあ、編集者自体、そんな人ばっかりでもあるわけでね(苦笑)。ますますまとめづらいのも、さもありなんで…
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せっかく一人に戻ったのだから、ここからは「原点回帰」で、自分の仕事にあらためて向き合いたいと思っています。
同じ仕事を20年も続けていると、どうしてもルーティンと化してくる…
「まあだいたいこんなもんでしょ」という落とし所ができてしまう。
けれど、そんな中からはヒット作が生まれるわけもなく。
ここ数年、仕事についてずっと考え、私はやっぱりこの編集の仕事が大好きなのだとあらためて思った。
だからこそ、もっと「熱い気持ち」をもって、本をつくりたい。
せめて心は新人のつもりで、新しいことに挑戦していきたい。これまでとは違う世界に手を広げていきたい…。
今、清々しい気持ちと同時に、わくわくする気持ちも抱いているのです。